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核融合発電のプラズマが爆発しない理由

核融合発電では、1億度プラズマ(真空に近い希薄な水素ガス)を使うので、爆発するのではという心配を皆さん持つようです。(核爆発を連想するのかもしれません)でも安心してください。「原理的」に爆発しないのです。

☆爆発というと、一気にエネルギーを発生して、火の玉のように温度が上がって、爆風を伴って周りのものを吹き飛ばすというイメージですよね。核融合発電のプラズマは、運転条件の(例えば)1億度よりさらに温度を上げることが、その原理からして不可能なのです。だから一気にエネルギーを発生したり、温度が勝手に上がっていくというようなことが起こりません。また1億度のプラズマが周りの金属を溶かすようなこともありません

☆どうしてかもう少し説明します。 プラズマは希薄すぎるため、壁に当たると温度が下がってしまうので、目に見えない磁場のかご(籠)を使って閉じ込めます。(上の左の図)広がろうとするプラズマを磁場の力で押さえ込んでいる感じです。この広がろうとしたり、押さえ込もうとしたりする力のことを「圧力」と呼びます。ここでプラズマの圧力は「温度」×「粒子の数(密度)」に比例し、磁場の圧力は超伝導電磁石が作る磁場の強さによって決まっているというのが味噌になります。そしてプラズマの圧力と磁場の圧力が上手く釣り合ってこそ、初めて運転ができるのです。(その圧力は、核融合発電の場合、数気圧ですので、爆発することはありません。)このバランスが崩れると、プラズマの温度は一瞬に下がってしまいます。

☆ここで温度が突然上がったらどうなるか考えてみます。温度が上がると、プラズマの圧力が上がります。一方、磁場の圧力は変わりません。(磁場の強さは一定ですから)これでは上手く閉じ込められなくてバランスが崩れ、(シャボン玉が割れるような感じで)プラズマの温度が瞬時に下がってしまいます。また、燃料を入れすぎた場合を考えてみます。今度は粒子の数が増えて、やっぱりプラズマの圧力が上がります。磁場の圧力は変わりません。今度も上手く閉じ込められず、プラズマの温度が下がってしまいます。このように一定の磁場の圧力によって、温度や密度が異常に上昇することを抑制しているのです。バケツの水で例えると、いくら沢山の水(プラズマの圧力)を入れようとしても、バケツの大きさ(磁場の圧力)が決まっているので、ある量以上の水は絶対に入らないというのと似ています。(上の右の図)

☆電源を喪失した場合はどうでしょうか?その時は、超伝導磁石に流れている電気が止まり、磁場がなくなります。磁場がなくなれば、プラズマを閉じ込められなくなり、温度が瞬時に下がります。一方、超伝導磁石に設計値以上の電流を流そうとしても、超伝導の臨界電流(超伝導特有の限界性能)を超えて、磁場がなくなってしまいます。


☆つまり、実際の運転では、上の図のように温度や粒子密度を上手く制御して、磁場の圧力と釣り合うようにします。昔は手で制御していたものが、今ではコンピュータを使って制御できるようになったので、 実験でも、高い温度を長時間維持できるようになってきました。原子力発電(核分裂)のような、連鎖反応を抑制する制御方法ではありません。そして核融合プラズマの長い研究の歴史の中で、爆発のような現象は起こっていません。

コメント

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核融合と核分裂の違い

★原子力発電所の事故以来、『核分裂』と言うべきところを『核融合』と言い間違えている発言をよく耳にするので、ここはしっかりと訂正しておきたいと思います。(こんな時期なので黙っておこうと思ったのですが、わたしにも少しは主張する権利があると思い・・) ★原子力発電所で起こる反応は『核分裂(カクブンレツ)』です。ウランのような重たい原子核が分裂して2つに割れることを『核分裂』といいます。(上側の絵)原子力発電所で『核融合』が起こることはありえません。(原子力発電所で起きた水素爆発は、水素と酸素の化学反応で、核融合ではありません)ついでに高速増殖炉(もんじゅ)も『核分裂』です。 ☆『核融合(カクユウゴウ)』は、水素のような軽い原子核が二つくっついて、一つになることです。(下側の絵)今、 世界中で研究 が行なわれている 『核融合』発電 は、水素をくっつけて(融合して)、ヘリウムにする 制御された 核融合反応 を使います。その時、『核分裂』を使うことはありません。 ☆だから、次のことは自明です。 『核融合』発電ではウランを使いません 。だから、 爆発もしない し、 暴走もしない し、連鎖反応もしないし、再臨界もしないし、メルトダウンもしないし、核燃料もないし、核物質もないし、核不拡散問題もないし、高レベル放射性廃棄物もありません。 【水素爆弾との違いは 私の別の記事 を参照ください】 ☆初期(まだ実現まで25~30年くらいかかるけど)の『核融合』発電も、 トリチウム(三重水素) という放射性物質(半減期が12年)を扱うため、100%クリーンとはいえません。しかし、放射能漏れによる潜在的リスク(発電所が保有する放射性物質の強さの合計)は原子力発電の1000分の1以下です。だから 最悪の事故 を考えても、周辺住民が避難するような事態にはなりません。

核融合と核分裂のエネルギー比較

核融合も 核分裂 も 原子核の質量欠損 を使ったエネルギーなので、少量の燃料で大きなエネルギーを得ることができます。工学的に大きな意味はないのですが、核融合と核分裂のエネルギーを比較してみましょう。 1個のウラン(U)原子核が核分裂したときに発生するエネルギーは、約200MeV(メガ電子ボルト)です。(MeVは物理で使うエネルギーの単位です。大きさを比較するだけなので、ここでは詳しい説明は省略します)一方、1個の 重水素 (2H)原子核と1個の 三重水素 (3H)原子核が核融合したときに発生するエネルギーは、約17MeVです。そうです、1回の反応で発生するエネルギーは、核分裂の方が核融合より約10倍大きいことが分かります。 ところが、こんな比較もできるのです。同じ燃料の重さから発生するエネルギーの比較です。ウランは水素よりかなり重たいので、燃料の単位重さ当たりで発生するエネルギーは、逆に核融合の方が核分裂より4倍大きくなります。 もっと分かりやすく表現すると、核分裂の燃料ウラン1グラムは「石炭3トン分」のエネルギーに相当します。一方、核融合の燃料(水素)1グラムは「石炭13トン分」に相当します。さらに、これは「石油約8トン分」です。いずれにしても、少ない燃料で大きなエネルギーが得られることにかわりありません。 ※ここでは反応で生まれるエネルギーを計算しました。発電所で電気エネルギーに変換すると、発電効率がかけ算されるので、少し数字が変わります。

空の太陽と地上の太陽「核融合発電」の違い

☆太陽中心では、4個の水素の原子核が融合して、最終的にヘリウムに変わる核融合反応(原子核が融合する反応)が進行しています。このとき、約0.7%の 質量が消失 して、そのエネルギーが光(電磁波)として放出されています。今も太陽は、1秒間に約42億キログラムずつ軽くなっているそうです [1]。でも太陽は想像以上に巨大なので、あと50億年は核融合反応を続けられます。 太陽中心で起こっている核融合反応 ☆ところがこの反応(特に最初の水素同士の融合反応)は、非常にまれにしか起こりません。個々の水素原子核について見ると、その寿命が10億年、つまり10億年に1回くらいしか反応しないそうです。だから、太陽の中心のエネルギー発生密度は、1立方メートルあたり270ワットしかありません [2]。(ちなみに人間は約1,000ワット)これでは、たとえ小さな太陽を地上に作ったとしてもエネルギー源にはならないことは明白です。 ☆そこで、地上の太陽「 核融合発電 」では、普通の水素ではなく、その同位体である 重水素 と 三重水素 の核融合反応を使います。(重水素の記号Dと三重水素の記号Tを使ってD-T反応とも言います)これが一番起こしやすい、確率の高い反応だからです。幸い地球上には初期の宇宙で作られた重水素が残っていました。海には50兆トンもの重水素があります。三重水素は、自然界にあまり存在しませんが、同じく海水に含まれる2,000億トンの リチウムから生産 することができます。地球上には奇跡的に核融合発電に使用できる燃料が存在していたのです。もし、これらが地球上に存在しなければ、核融合発電の構想は生まれなかったでしょう。 地上の太陽「核融合発電」で用いる核融合反応 ☆D-T反応では、 中性子 とヘリウムが発生しますが、 中性子の運動エネルギーを熱エネルギーに変換 して発電に使います。一方、ヘリウムの運動エネルギーは、プラズマの温度を維持するために使われます。いずれにしても、この反応は 核分裂反応 と異なり、中性子を介在した連鎖反応でないことが分かります。従って、止めることが容易であり、原理的に暴走しません。 参考文献 [1] Newton別冊「アインシュタインの世界一有名な式 E=mc2」 [2] ローレンス・リバモア国立研究のWebペ

重水素燃料を海水から取り出すためのエネルギー

☆ 核融合発電 の 燃料 は 重水素(水素の同位体) ガスです。海水中に無尽蔵に存在するため、枯渇する心配がありません。ところが、水素の中の重水素の存在比率は0.015%しかありません。「重水素を抽出するために、莫大なエネルギーを使わないのですか?」と質問をされることがあります。その質問にお答えしたいと思います。 ☆上の絵は、水の中の分子の様子を表したものです。ほとんどの水分子では、水素(青い玉)2個と酸素(黄色い玉)1個がくっついている状態が、ほんの一部だけは重水素(赤い玉)と酸素がくっついています。この重水素と酸素が結合した水のことを「重水」と呼びます。また普通の水素でできた水を「軽水」と呼びます。(「重水」と「重水素」は違うものですのでご注意ください。また実際には水素1個と重水素1個と酸素1個が結合した水分子があるのですが、話しを簡単にするためにここでは省略します。) ☆「軽水」と「重水」を分離する技術は、すでに工業化されています。新しい方法としては、電気分解を使う方法があります。電気分解(電気で水素と酸素に分解すること)すると、「重水」より「軽水」の方が早く分解します。だから部分的な電気分解を繰り返すと「重水」だけが濃縮されて残っていくというしくみです。 ☆「重水」ができれば、後はこれを、完全に電気分解すれば「重水素」ガスと酸素ガスに分解できます。重水素はこうのようにして生産されます。 ☆さて問題は、重水素の生産に必要なエネルギーです。生産過程では「重水」生産がほとんどのエネルギーを使います。論文で調べると、1kgの重水を生産するのに必要なエネルギーは57MWh(メガワット時)ということでした。一方、1kgの重水には200gの重水素が含まれてます。この重水素を使って核融合反応を起こすと38,000MWhのエネルギーが発生します。これは重水生産に必要なエネルギー(57MWh)の約700倍になります。つまり、燃料生産に必要なエネルギーは、発電されるエネルギーに対して十分に小さいという結果になります。 (参考:R. Dutton他、Nuclear Engineering and Design 144 (1993) 269)

1億度ってどんな温度?

☆ 核融合発電 では1億度の水素の プラズマ を使いますと見学者に説明すると、びっくりされます。1億度という温度が容易にイメージできないからです。そしてそのことを怖がる人もいます。だからプラズマを温度で表現するのは慎重にしないといけないようです。 ☆気体は目に見えませんが、小さな粒子(分子)がある速度で動き回っています。上の絵のように、色々な方向に飛び回っています。私たちの周りの空気(窒素分子と酸素分子がほとんど)だと秒速300メートルほどです。でも空気の粒子が当たって痛いと思う人はいませんよね。(これって不思議です) ☆さて、気体の温度が高くなると、粒子の速度も速くなっていきます。 プラズマ になって、イオンと電子に分離しても、粒子の速度は温度が高くなるにつれて速くなっていきます。(イオンと電子の速度が同じとは限りません。)例えば「蛍光灯」は身近なプラズマの代表ですが、中の粒子(電子)は、1万度の温度になったときと同じ速度(毎秒600キロメートル)で走っています。『蛍光灯が1万度?』またまた話しがややこしくなってきました。蛍光灯を触っても、火傷するほど熱くはないですよね。 ☆私たちが熱いとか冷たいとか感じるのは、温度だけでなく、(温度)×(粒子の数)が関係しているのです。(熱の伝わりやすさも関係しますが・・)蛍光灯の中に1万度の電子がいても、その数がものすごく少なければ、熱くなりません。実際にものすごく少ないのですが。 ☆さて、核融合発電のプラズマは、粒子(原子核)の数(密度)が空気の10万分の1くらいしかありません。(真空と言ってもよい状態なのです)1億度の温度とかけ算すると、熱いことは間違いないですが、想像を超える熱さではありません。ちなみに、 大型ヘリカル装置 でできた最もエネルギーの高い(熱い)プラズマは、200リットルのお風呂のお湯の温度を2度上げるくらいのエネルギーしかもっていません。だから1億度といっても、 周りのものを溶かしてしまうような力は持っていない のです。(安心してください) ☆だったら、どうしてエネルギー源になるの?という質問が来そうです。 核融合発電所 のプラズマで 核融合反応 が起こったときにできる 中性子 、これがある速度を持っていて、プラズマから外に飛び出してきます。その中性子を ブランケット